てんとう虫の歌(中学年誌と高学年誌の逆転現象)
仲のいい大人数兄弟だったら楽しいだろうなという単純な理由で大好きな作品でした。
私は1973(昭和48)年『小学四年生』・1974(昭和49)年『小学五年生』でリアルタイムで読んでいました。
簡単に各号のあらすじというか見出しを載せますが、例によって記憶をたよりに書いていますので曖昧です。
「てんとう虫コミックス」版の「てんとう虫の歌」は全4巻持っていたのですが(どっちも「てんとう虫」でややこしいですが)、今は引っ越しの際に処分してしまって手元にありません。
「てんとう虫の歌」に限らず、たくさんマンガ本を持っていたのですが、残念ながら今はほとんど手元に残っていません。
一週家の7人兄弟ですが、主役級は、ひよ子と火児。
次いで月美。
そして、金太郎・水男と続き、
もっとも影が薄かったのが、木介・土丸となります(この2人は、名前もなんだか茶色っぽいイメージで地味です)。
同じ兄弟でも、川崎先生は同格ではなく、上のように差をつけて描いていました。
私が読んでいた、『小学四年生』『小学五年生』に掲載されていたのは、次の内容だったような気がします(記憶曖昧)。
●『小学四年生』4月号
ひよ子が姉兄たちの学校まで弁当届けるエピソード。
兄弟の多さに校長先生が驚き、それを教頭先生が説明するという形で、読者にも登場人物紹介がなされます。
一週兄弟を知らないということは、校長先生は4月に赴任したばかりだったのですかね。
教頭先生は既に何年か在職で、一週兄弟のことを知っていたのでしょう。
だとしても、教頭先生、一週兄弟について詳しすぎ!――という感じですが。
入学前の、ひよ子のことまで知っていましたからね。
●『小学五年生』5月号
火児による家族の作文。
ここで、ペットたちのことも説明されます。
兄弟たちで、結婚記念日に両親にプレゼントする相談。
●『小学四年生』6月号
福引で、火児とひよ子が北海道旅行を当てます。
●『小学四年生』7月号
両親が飛行機事故に遭います
●『小学四年生』8月号
木介・金太郎・土丸・ひよ子の弟妹たち4人が、親戚に引き取られます。
個人的には、ここで兄弟たちが、飛行機旅行を当ててきた火児とひよ子を責めないかということを心配しました。
ですが、連載終了までその描写は一切無く、救われました。
火児やひよ子が自責で苦しむこともありませんでした。
それが描かれてしまったら、あまりにも残酷でしたからね。
ただ、現実社会だったら、そういう「責め」はきっと発生したことでしょうけれど。
●『小学四年生』9月号
弟妹たち戻ってきます。
やはり、7人で暮らしていこうとなります。
●『小学四年生』10月号
家賃不払いで借家だった自宅を追い出されます。
●『小学四年生』11月号
祖父で大金持ちの岩倉鉄之助を訪ね、裏のボロ家を与えられます。
●『小学四年生』12月号
生計のため、月美・火児・水男はアルバイトを始めます。
金太郎・土丸・ひよ子は、鉄之助の剣道の相手をし、やっつけて小遣いをたんまりもらいます。
●『小学四年生』1月号
「あやうし、てんとう仮面」のエピソード?
よく覚えていません。
●『小学四年生』2月号
「金太郎はもらい子?」のエピソード?
実は、2月号は親に買ってもらえなかったのです。
後から「てんとう虫コミックス」を読んで、2月号のエピソードはこれだったのかなと見当つけました。
●『小学四年生』3月号
「ゴリラでどっきり」のエピソード?
春の号に掲載だった気はするのですが。
●『小学五年生』4月号
ひよ子に対し父親代わりとして、どのように接するのがいいのか苦悩する火児のエピソード。
この辺りの号だったかなあ?
●『小学五年生』5月号
授業参観エピソード。
ラストで月美倒れる。
●『小学五年生』6月号
月美が倒れた理由は過労。
月美に負担をかけていたことに気付き、愕然とする弟妹たち。
●『小学五年生』7月号
月美代わりに家事労働を1人でがんばる火児。
だが、火児もまた過労で倒れてしまう。
●『小学五年生』8月号
木介・金太郎・土丸・ひよ子たちは、月美・火児に負担をかけまいと親戚の家へ。
勝手に出て行かれたり、また舞い戻られたりしては、親戚の家も迷惑だろうにと、私は子ども心にちょっと思いました。
それに、親戚のおじさん・おばさんたちに頼るよりも、直系親族である祖父の岩倉鉄之助に頼る方が自然なはずです。
大金持ちなんだし。
ただ、そうはなりませんでしたね。
一週兄弟たちも、鉄之助には基本的には頼ることはできないと考えていたのでしょう。
●『小学五年生』9月号
両親のお墓の前で、月美・火児だけに負担をかけるのではなく、兄弟みんなで家事分担をすれば良かったことに気づき、解決。
これまであまり描かれることのなかった木介がリーダーシップをとっています。
●『小学五年生』10月号
野球に興味を持つ火児。
ラストは、
「投げてこい!」
と意気込んだものの、弟妹たちの石ころまとめて浴びてコブだらけ。
●『小学五年生』11月号
火児の登校前の朝のエピソード。
他の兄弟たちはとっくに登校してしまい、火児とひよ子のやりとりがコミカルに描かれていました。
ライバルの長嶋君と登校途中競い合い、やがて競走になり、ついには学校を通り越して行ってしまうというラストでした。
●『小学五年生』12月号
花園さゆりと月美からユニフォームとグローブを贈られ、嬉し泣きの火児。
一週兄弟に、野球商品を揃える経済的余裕は無かったのです。
次号から、火児の野球部での活躍が描かれるのかと思ったのですが、火児の野球エピソードはこれで終わりでした。
●『小学五年生』1月号
お正月。ひよ子が、娘を亡くした夫婦と出会い、その関わり。
夫婦の亡くした娘が、ひよ子とそっくりなのでした。
もしかしたら、このエピソードは前年の1月号だったのかもしれません。
●『小学五年生』2月号
ひよ子誕生時についてのエピソード(最終回)。
上記のほかにも、ひよ子と押し売りのエピソードとか、ひよ子の朝ごはん支度がなかなか進まないエピソード、雪の日のエピソードなどがありましたが、私はそれが『小学四年生』『小学五年生』で初見だったのか、「てんとう虫コミックス」で初見だったのか分からないのです。
例によって国会図書館に行けば分かるのかもしれませんが、それは行っていませんので。
上記でも、『小学五年生』11月号と1月号のエピソードは単行本未収録だった気がします。
次からは、2歳下の弟の1974(昭和49)年『小学三年生』に掲載されていた「てんとう虫の歌」です。
●『小学三年生』4月号
雨で小学校から帰れない一週兄弟のもとに、死んだはずのかあちゃんが傘を7本持って登場します。
●『小学三年生』5月号
かあちゃんは実は、母休美の双子の妹、叔母の明美でした。
アメリカに嫁いでいたので、英語が得意です。
●『小学三年生』6月号
水男が、明美のことを作文に書きます。
土丸の誕生日エピソードが描かれます。
原作で土丸がメインになるのは、多分このシーンだけ。
このことから、私は土丸の誕生日を6月と推測しました。
「アメリカから届いた手紙を届けるのは明日にしよう」
と家の前から立ち去る鉄之助がラストです。
●『小学三年生』7月号
明美が持っていた家族写真を見たひよ子が、怒ってそれを破ります。
さらに明美もそれをびりびりに。
しかし、夜、明美は泣いて謝りながら写真を貼り直していました。
それを月美はふすまの陰から見てしまい、心を痛めるのです。
読んでいると、月美や火児は、まるで大学生か高校生のように思えてしまいますが、設定は小学校高学年なのです。
大人すぎます。
●『小学三年生』8月号
ペットの犬のカラベエと豚のヨイチ、あひるのガアコのトラブルがメインで描かれ、それと並行して鉄之助からの手紙を読む明美の様子が描かれます。
その様子に不安を感じるひよ子。
明美は出かけ、帰ってきません。
鉄之助がたずねて来て、ペットたちと兄弟たちに夕食を与えます。
そして兄弟たちに迫られた鉄之助は、
「もう明美は帰って来ん」
と言ってしまいます。
泣きながら家から飛び出すひよ子がラストです。
●『小学三年生』9月号
泣いているひよ子、そして兄弟たちを見ているのがつらく、つい、
「明美は今日は帰ってこないが、明日は帰ってくる」
と言ってしまう鉄之助。
兄弟たち、岩倉家をたずね、アメリカからやってきた7人の子どもたち(一週兄弟の従兄弟にあたる)と遊んでいる明美を見てしまいます。
●『小学四年生』10月号
川崎先生が原稿落とします。
ただ、高学年誌の方では「火児、野球に挑戦」のエピソードがスタートしていますから、川崎先生は1本は間に合わせていたことになります。
深刻な話の方が、先延ばしになり、なんだかコミカルな原稿は載っていることに、少々違和感を感じました。
●『小学三年生』11月号
明美の家族たちと旅行に行くことになるひよ子。
ラストで、ひよ子は明美と一緒にアメリカに行くと言い出し、兄姉たちは衝撃を受けます。
●『小学三年生』12月号
悩んだ末、兄姉たちはひよ子をアメリカに行かせることを決心します。
●『小学三年生』1月号
ひよ子が、鉄之助の車で出発するシーンがラストです。
月美と土丸は泣き崩れます。
●『小学三年生』2月号
車内で、ひよ子は月美が持たせてくれたおにぎりや、アップリケの洋服のことを思い、月美の姿に、母、休美の姿を思い出します。
月美がぜんぜん寝ていないことに気付くひよ子。
ちょうど、お墓の前を通りかかり、車を止めさせ、ひよ子は両親の墓の前に。
そして、これから一緒に行こうとしている明美は、本当の母親ではないことを認識します。
「あたし、本当は、父ちゃんと母ちゃんのお墓参りに行ってきたんら」
ひよ子は兄姉たちの元に帰ってきました。
涙ながらに抱き合い、結束を固める7人兄弟!
機上では明美が、
「ひよ子はやはり来なかったわ……。
ひよ子ちゃん、お兄さんお姉さんたちと、元気でね」
と笑顔で涙を流していました。
同じ台詞内でも、最初は「ひよ子」、そして次は「ひよ子ちゃん」。
「我が娘」から、「姪」へと気持ちを切り替える、明美の心の動きが読み取れます。
川崎のぼる先生は1年がかりで、明美と一週兄弟との関わりを描いていました。
たしか、1年全部この話だったと思います。
川崎先生は1回だけ原稿を落としてしまい、不掲載だった10月は、アシスタントさんが描いた短編でした。
もちろん、その短編はコミックスには収録されていません。
「てんとう虫の歌」は、1973~74年の2年間連載されていました。
『小学三年生』『小学四年生』で同時掲載、『小学五年生』『小学六年生』で同時掲載でした。
毎号、ページのはしっこに、
「川崎のぼる先生が大変ご多忙のため、同時掲載致します」
みたいな記載がされていました。
1973年は、それでも同じ内容をちょっとバージョンを変えて描いていました。
たとえば、1973年10月号の大家に家賃不払いで追い出されるエピソード。
『小学三年生』『小学四年生』では、ひよ子が月美と火児を困らせる大家を何とかして追い出そうとする様子がコミカルに描かれていました。
『小学五年生』『小学六年生』では、水男が「てんとう虫の歌」(ちなみにアニメ版とは違う、川崎先生が作ったもの)を作詞作曲し、火児が紙飛行機を完成させたところに大家がたずねて来て、月美が対応するというものでした。
中学年誌では大家対応は月美と火児、高学年誌では大家対応は月美一人という違いがありました。
1973年11月号の岩倉鉄之助の豪邸をたずねる描写でも、中学年誌では豪邸を真正面から見て驚く一週兄弟の背中が描かれ、高学年誌では豪邸に驚く一週兄弟の様子が横から広角レンズで撮影されたようなアングルで描かれていました。
コミックスに掲載されたのは、どちらも高学年誌版の方でした。
1974年版だと、完全に中学年誌と高学年誌でエピソードが分かれます。
高学年誌は、月美過労のエピソードと、火事の野球エピソードが連作で、他に短編が掲載。
中学年誌は、1年かけて叔母明美と一週兄弟のエピソードでした。
当時、私はこれ読んで、
「掲載誌、逆なんじゃないの?」
と思いました。
中学年誌版の方が、明らかに内容がヘビーだからです。
感動、大団円の中学年版の最終回2月号ですが、高学年版の最終回2月号では、母親の日記を焚き火で燃やしてしまったひよ子が、兄たちから
「出て行け」
と、ぶん殴られて追い出されるシーンから始まります。
こんなDV描写、現在だったらNGでしょう。
中学年版ではひよ子との別れを悲しんでいるのに、高学年版では兄たちがひよ子を追い出すというちぐはぐさに、ほんと、当時同時に2誌を読んでいた私は違和感を感じまくっていました。
でも、高学年誌版は主役が年長者の月美や火児、中学年誌版は主役が最年少のひよ子ということで、読者の年齢に近づけるためにこのようにしたのかもしれません。
ちなみに、1年かけて連載された叔母明美の話ですが、テレビでは30分にまとめられてしまっていて、
「あれほど川崎先生が心血を注いで描いた原作がたった1話?」
と、私は拍子抜けした記憶があります。
しかも、なぜか明美の嫁ぎ先はアメリカではなくオーストラリアになっていました。
「てんとう虫の歌」が3月号まで連載されず、2月号で連載終了したのは、川崎のぼる先生が「週刊少年サンデー」で連載していた「ムサシ」のスケジュールがきつくなってきたからだったのではないかと、今となっては推測します。